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名古屋地方裁判所 平成元年(ワ)300号 判決 1992年11月11日

原告

岡田瑛

岩瀬勝

畠茂

畠政雄

鯉江孝

原告五名訴訟代理人弁護士

中根常彦

田代清一

被告

スギー産業株式会社

右代表者代表取締役

小杉仁造

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

永井恒夫

向井千杉

山下勇樹

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

(主位的請求)

1  被告は、原告岡田瑛(以下「原告岡田」という。)、同畠茂、同畠政雄、同鯉江孝(以下「原告鯉江」という。)に対し、別紙物件目録二記載の施設(以下「施設二」という。)について、会員として権利を有することを確認する。

被告は、原告岩瀬勝(以下「原告岩瀬」という。)に対し、施設二について、日曜祭日を除いて会員としての権利を有することを確認する。

2  被告は、原告岡田、同畠茂に対し各自一万八二〇〇円、同畠政雄に対し九一〇〇円、同鯉江に対し四五五〇円及び各金員に対する平成元年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告岩瀬に対し、六二万五〇〇〇円及びこれに対する平成元年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告は、原告らに対し、毎年一二月三一日限り、知多カントリー倶楽部の会員名簿を発行して交付せよ。

5  2、3につき仮執行宣言

(予備的請求)

被告は、原告岡田、同畠茂、同畠政雄、同鯉江に対し、同人らが、別紙物件目録一記載の施設(以下「施設一」という。)について、東コースからスタートして西コースの順に利用し、又は西コースからスタートして東コースの順に利用する会員としての権利を有することを確認する。

被告は、原告岩瀬に対し、施設一について、日曜祭日を除いて、東コースからスタートして西コースの順に利用し、又は西コースからスタートして東コースの順に利用する会員としての権利を有することを確認する。

第二事案の概要

本件は、被告が築造して所有し、預託金会員制ゴルフクラブの施設として利用に供されている一八ホールのゴルフ場について、被告とゴルフ会員権契約を締結し、ゴルフ場会員となった原告らが、右契約後被告が九ホールを増設したことに伴い新規会員を募集し、従前の会員については、九ホール増設協力金の支払いをしない場合は新設の九ホールについては会員としての利用ができないという取り扱いをし、原告らが新設九ホールを利用した際に非会員の料金を徴収したことから、原告らが、被告に対し、主位的に、新設九ホールについても会員としての権利を有することの確認を求めるとともに、新設九ホールを利用した際に支払った非会員の利用料金と会員利用料金との差額分の返還を、また、新設九ホールの増設協力金を支払った原告が、右支払いは詐欺、錯誤に基づくものであるとして支払い金の返還を、さらに、ゴルフ倶楽部の会員名簿の発行交付をそれぞれ求め、予備的に、原告らが従前の施設を利用していた際のコース順で施設を利用する権利を有することの確認を求めたものである。

一争いのない事実等

(本理由中の書証は、すべて成立に争いがないか、弁論の全趣旨により成立を認めたものである。)

1  (被告のゴルフ場開設)

被告は、遊園地その他の娯楽及びゴルフ場、スキー場等のスポーツ施設の建築並びに経営等を目的とする株式会社であり、施設一は昭和三七年ころに被告が知多ゴルフコースとして開設し、アウト、イン各コース合計一八ホールを造成し、これに付随するクラブハウス等の付帯施設を築造し(以下「本件ゴルフ場」という。)、それらの施設を所有し、さらに知多カントリークラブ(以下「本件倶楽部」という。)を組織したうえ、正会員、平日会員、婦人会員及び家族会員の区分により会員を募集し、本件ゴルフ場を開始したものである。

2  (原被告間の契約)

原告岩瀬は昭和五七年六月二二日ころ、原告岡田は昭和五二年五月一八日ころ、原告畠茂は昭和五四年六月八日ころ、原告畠政雄は昭和五一年七月一七日ころ、原告鯉江は昭和五一年九月一一日ころに、それぞれ前主と被告との間で締結された本件ゴルフ場を利用することができる旨のゴルフ会員権契約(以下「本件契約」という。)の契約上の地位を譲り受けた(以下、本件契約による本件ゴルフ場施設を優先的に利用しうる権利等を取得した者を「会員」という。)。

3  (施設増設及び協力金の通知)

被告は、施設一の隣接地に施設二の増設を計画し、

(一) 昭和六〇年九月に、施設一の利用権を有する全会員に対し、九ホール増設計画実現のために造成諸費用の資金手当は、増設協力金を会員にお願いすることを倶楽部理事会で決定承認していだいたので、左記の負担をお願いしたい旨の通知をし、

(1) 預託保証金

正会員 一名につき一〇〇万円

平日・婦人会員 一名につき五〇万円

(2) 払い込み期間

昭和六〇年九月より昭和六〇年一二月一五日まで

(3) 期間後の払い込み額

預託保証金額に月利0.85パーセントを乗じた額

(二) 昭和六〇年一一月に、九ホール増設協力金を支払わない会員は、一八ホールの利用は従来どおりであるが、増設九ホールは、増設協力金を支払った人のみ会員として利用できる旨の通知をし、

(三) 昭和六〇年一二月二七日に、増設九ホールに伴う預託保証金についての問い合わせ、質問を集約し明確にしたいとした上で、左記記載のある通知をし、

「1 正会員 一名につき一〇〇万円

平日・婦人会員 一名につき五〇万円

いずれも預託保証金(預り金)で、会員資格を失った場合は、増設九ホールの利用権もなくなりますので此の保証金についてもご請求により返還されるものです。

2  金利を付する旨お願いしてありますが、今回の最終払込日、昭和六〇年一二月一五日をもって締め切ります。故、金利については関係なくなりますのでご了承下さい。

その後のご協力については機会がございますとしても、今回ご協力いただいた会員の方々のご不利にならぬ様配慮したいと存じます。

3  新規会員募集は、出来得る限り最小限に止めたいと考えておりますが、実施致します。」

「今回の九ホール増設については、その混雑緩和も目的の一つでございます。」

(四) 昭和六一年一月一八日に、預託保証金の払い込みは一二月一五日をもって締め切ったが、その後も払い込み希望が頻繁にあるので、昭和六一年一月三一日まで申し込みをすれば、前回同様の取り扱いをする旨を通知し、

(五) 昭和六一年六月には、協力金の預託について左記のとおり理事会で決定した旨通知し、

「1 お申込期間

昭和六一年七月三一日まで

2  お払い込金額

正会員

一一五万円

(内預託保証金一〇〇万円)

平日・婦人会員

57.5万円

(内預託保証金五〇万円)

3  お払い込期間

昭和六一年八月三一日まで

右期間以外の場合は、

1  お申込期間 昭和六一年一〇月一日より昭和六一年一一月三〇日まで

2  お払い込金額

正会員

一二五万円

(内預託保証金一〇〇万円)

平日・婦人会員

62.5万円

(内預託保証金五〇万円)

3  お払い込期間

昭和六一年一二月三一日まで」

(六) 昭和六三年三月二三日には、理事会で九ホール増設協力預託金申込受付料金を四月一日より左記のとおり改定した旨通知した。

「個人正会員 二〇〇万円(内預託保証金一〇〇万円)

平日・婦人会員 一二五万円(内預託保証金五〇万円)」

(右通知にかかる改訂金額が二〇〇万円であることは<書証番号略>より認定。)

4  (原告らの施設二の利用による非会員料金の支払い)

原告岡田、同畠茂、同畠政雄及び同鯉江(以下「不払い原告」という。)は右増設協力金を支払わず、従前どおりの会員(以下「一八ホール会員」という。)のままであったため、別紙一覧表の日時に施設二を利用した際に非会員としての使用料金の支払いを要求され、支払った。また、被告は、施設二を利用する知多カントリークラブ競技会には不払い原告の参加を認めなかった。

(昭和六三年五月二四日に原告岡田、同畠茂及び同畠政雄が利用した事実は、原告岡田本人により認定。)

5  (原告岩瀬の増設協力金支払い)

原告岩瀬は、昭和六三年三月三一日に九ホール増設協力金六二万五〇〇〇円を被告に支払った。

6  (増設前後のコースの位置関係)

本件ゴルフ場は、従前はインコース九ホール及びアウトコース九ホール合計一八ホール(以下「従前コース」という。)であったが、被告は、施設二を増設し、それに伴い、インコース一〇番ホール(ミドル)(以下「イン一〇番」という。アウトコース、東コース、西コース、中コースの各ホールも同様に省略する。)は、延長改造し、中一番(ロング)に、

イン一一番(ショート)は、全面改造し、新たな敷地も取り込んで中二番(ミドル)と中三番(ショート)に、イン一二番(ロング)は、短縮改造し、中三番の一部と中四番(ミドル)に、

イン一三番は、西一番(ロング)に、

イン一四番は、西四番に、

イン一五番は、西五番に、

イン一六番は、全面改造し、新たな敷地も取り込んで西七番と西八番に、

イン一七番は、全面改造し、新たな敷地も取り込んで西八番と西九番に、

イン一八番は、延長改造し、西九番に、

なり、従前あった練習場は、コース造成され中九番になり、西二番、西三番、西六番、中五番、中六番、中七番、中八番が新たに造成され、東コース九ホール、中コース九ホール、西コース九ホール合計二七ホールとなった(以下「本件増設」という。)。なお、増設前の練習場と同規模のものが、西九番に隣接して新たに設置されている(<書証番号略>及び弁論の全趣旨により認定。)。

7  (会員名簿の不発行)

被告は、昭和五九年以来本件倶楽部の会員名簿の発行をしていない。

二争点

1  原告らは、施設二について会員として利用する権利を有するか。

(原告らの主張)

(一) (契約の対象施設の物的範囲の基準)

会員の施設利用権の物的範囲は、ゴルフ会員権契約の合理的意思解釈の問題であるところ、契約後に施設が増設された場合の施設利用権の物的範囲については、以下の基本的基準で判断するべきである。

基準1 「契約成立後、既存施設を拡張・配置の変更若しくは増改築した場合」は、「既存施設との同一性を失わない。」ので、従前の会員は新しい施設についても利用権を肯定される。

基準2 「契約成立後、新たに設置した施設であって、契約成立時に当事者において契約の対象とすることを考えていなかったものは、当然には右利用権の範囲には含まれないと解するのが相当である。」

ただし、基準2の場合でも、

例外(1) 会員権契約締結時の契約内容が一八ホールのみを予定していたが、会員数が多過ぎて、会員の予約が極めて取り難い等の事情によって九ホールを増設する場合は、会員権契約締結時に予想しえた範囲内の会員の権利を充足するための契約内容として、増設九ホールについても会員の利用権が及ぶ。

例外(2) 会員権契約締結時は契約内容が一八ホールのみを予定していたが、施設経営企業側の金員の必要のため新規会員を募集するに際し、九ホールを増設する場合は、新規入会会員は、従来の一八ホールを当然に会員として利用する権利を有し、従来の会員は、その会員契約時に予想しえなかった新規会員に従来の一八ホールを利用されることによって利用権を侵害されることになるので、増設九ホールを従来の一八ホール会員が利用する権利を付与することによって、利用権侵害の対価とすると解すべきである。

基準3 「新たに設置した施設であっても、それがゴルフ界一般の観念として既設の施設と一体となって機能するものは、当然契約の対象として利用権の範囲に含まれるものというべきである。」

(二) (基準2の例外(2)の該当性)

本件契約時に被告が所有した施設及び増設を予定した施設以外の施設を利用させることは原告らの権利の範囲を越えるが、本件増設により、原告らは、以下のとおり本件契約時の利用権を一方的に大幅に制限されるのであり、現実に原告らは、本件増設前に比して、東西コースのプレーができた機会がほぼ半減したのであるから、前記基準2の例外(2)の場合に該当し、原告らは、施設二も利用できると解釈すべきである。

一般に、ゴルフ場で一組(四人)を六分毎にスタートさせると、アウト、イン各コース同時スタートで三時間で六〇組(二四〇人)が利用の限界となり、多少の時間のロスをみると、一八ホールのゴルフ場でプレーを円滑に進行させるための施設利用可能人数は二〇〇名、二七ホールクラブでは三〇〇名が目安となる。そうすると、一八ホール会員は、本件増設前は一八ホール合計二〇〇名分が利用できる施設の会員であったのに、本件増設後は施設二を利用できないため一〇〇名分の利用しかできない施設の会員となってしまうので、単純計算しても五〇パーセントを越えて利用が制限される。また、ゴルフ場の利用者は、非会員の方が多数であり、平日は会員一人が七人まで、日曜祭日は三人まで非会員を紹介することができるので、会員と非会員の割合は一対六を越えるものとなる。したがって、ゴルフ場の施設が五〇パーセント一〇〇名分増加しても、増加分がすべて非会員で利用されているとするならば、会員数が増加しただけ利用機会が減少することになる。

特に、本件では施設二(中コース)は、無理に設計したコースであるため、造成、芝つきが悪く、ボールのロスが多く、冬季における北西風の影響が強い等の理由で不人気であることから、従前コースを中心とした東、西コースの予約が先行するため、従来の予約方法によっては、原告らが東、西コースを利用できない場合が多い。

さらに、クラブコンペに参加することは会員の権利であるが、一八ホール会員は施設二を利用するクラブコンペに参加できない。

(三) (基準3の該当性)

原告らは、被告が所有し、経営する知多ゴルフコース及びその付帯設備について利用権を有している。施設二は新設された九ホールではなく、中一番ないし四番は従前のインコースを変更したコースであり、中九番は従前の練習場を変更したコースであり、中五番ないし八番についても、ほとんどが従来の本件ゴルフ場の敷地の中に設置されたコースである。結局、施設二は、従前の一八ホールの本件ゴルフ場の付属設備の一つである敷地の中に、従前のインコースを変更して増設したものである。このような増設方法をとったのであるから、東、西、中各コースは全体として有機的一体となっており、「既存のゴルフ場の付帯施設と一体となって機能するものは、当然契約の対象として利用権の範囲に含まれる」ものであるから、施設二は、当然本件契約の対象として原告らの利用権の範囲に含まれる。

また、ゴルフは、九ホールしかプレーしない場合は、ハーフであって競技は完結せず、一八ホールをプレイして初めて一ラウンドをプレーし、一つのプレーを完結したことになるのであるから、コースの新設は、一八ホールが新設されなければ、既存施設との一体性のない独立した施設にはならないと解する。

従前のインコースは、一部拡張あるいは短縮改造され本件増設後の中コース四ホールと西コース五ホールに振り分け使用されることになったが、西コースの新設した四ホールは、当然のことながらこれだけで独立して機能を有する施設ではなく、従前のインコースのうち、西コースとして割り当てられた五ホールと連携して初めて機能を有するものであるから、会員の物的施設利用権は、新設した西コース四ホールにも及ぶものである。そして、新しく設置された中コース五ホール(ただし、中九番は練習場を取り壊して造成された)についても、右同様、従前のインコースの一部を割り当てられた中コース四ホールと連携して初めて機能するものであり、会員の施設利用権は新たに設置された中コース五ホールにも及ぶものである。

(被告の主張)

(一) (ゴルフ会員権契約の対象施設の物的範囲)

ゴルフ会員権契約により会員が利用しうる施設の物的範囲は、ゴルフ会員権契約の趣旨及び内容により定められる。

本件においては、被告は、入会申込書(<書証番号略>)、誓約書(<書証番号略>)入会証書名義書換請求書(<書証番号略>)以外にはゴルフ場施設の利用関係の詳細を記載した文章は作成していないが、本件ゴルフ場開設当時コース増設は予定されておらず、本件契約にもコースの増設は特約されていないので、会員の権利は、開設時に予定されていた東西各コース一八ホールにとどまり、新たに増設された施設二(中コース)に及ばないことは明らかである。

「優先的利用権」の内容は、特定の土地に対する物権的な権利ではなく、債権的な施設利用権にすぎない。また、施設利用権といっても、個々の絶対不変のコース状況、環境でのプレーを保証するものでは決してなく、その内容は、当初契約の際に示された、常識的に他の地域と区別しうる一定の地域内において、当初契約の際に示されたゴルフプレーが可能なコースでゴルフプレーができるということにあり、コースレイアウトの変更等コースの改造は経営会社の経営権の行使としてその裁量に任されている。本件の場合、施設二の増設によって、西(イン)コースのうちの三ホールの位置が従前と変更したが、西コースは施設二増設後も独立した九ホールを有し、変更された三ホールは従前の西コースの他のホールに近接一体のものとして設置されているから、西コースはインコースのレイアウトの変更にすぎず、コースレイアウト変更の態様に照らせば、被告の行為が裁量権の濫用に当たる余地はない。

(二) (優先的利用権の趣旨、内容)

ゴルフ会員権契約は、会員が望むときにはいつでもプレーする機会又は一定頻度によるプレーをする機会を保証するものではなく、会員及びビジターの数をどの程度にするかは、ゴルフ場経営会社の経営事項として、その裁量判断に委ねられており、会員は、会社に対し会員数の制限を要求しうる権利を有するものではない。同様に、ゴルフコースについて、どのようなスタート方法、プレー順を設定するかということも、極めて技術的な問題であり、コースの効率的運営を考慮し、被告において運営していくべき事項で、被告の裁量措置に委ねられており、原告らの指定によってスタート順を定められるとする権利は観念できない。

(三) (契約違反状態の不存在)

施設二増設及び会員追加募集に伴い、会員数は二一五〇人(昭和六〇年九月三〇日現在)から二四一六人(昭和六三年九月三〇日現在)となって二六六名増加したものの、増加割合は、12.4パーセントにすぎず、増加前の一コースあたりの会員数は一〇七五人(二一五〇人÷二コース=一〇七五人)であったのに対し、増加後は、一八ホール会員は、一コース当たり八九二人(二四一六−一三〇=二二八六人、二二八六÷三コース=七六二人、七六二人+一三〇人=八九二人)となっているのであるから、利用機会は増加している。したがって、原告らの従前の利用実態に特段の変化を及ぼす事態は考えられない。

一般に、会員の追加募集等は、これにより既存の会員においてプレーの予約をとることが著しく困難になった場合等、その施設利用権が実質的に侵害されるような程度に至らない限り、経営事項として、ゴルフ場会社の裁量判断にゆだねられている事柄であって、会員の追加募集により、会員が適正数の三、四倍に及ぶような場合でも、判例ではゴルフ場会員契約は債務不履行にはならないとされている。

仮に、会員の施設利用権の侵害があったとしても、施設利用契約上の債務不履行責任の問題を生じるだけであって、それによって、施設利用契約の物的範囲が変更されることにはならないので原告ら主張の基準は到底採用できない。

2  不払い原告が、別紙一覧表の日時に施設二を利用し、支払った非会員としての利用料金と会員利用料金の差額分が被告の不当利得にあたるか。

3  原告岩瀬の増設協力金の支払いは錯誤、詐欺に基づくものか。

(一) 原告岩瀬は、被告からつぎつぎに増設協力金の金額を増加する通知を受け、このままでは一八ホール会員の存在は早晩認められなくなり、一八ホール会員に対する施設利用権の制限や譲渡の制限をやむを得ないものと誤信してあきらめたため、増設協力金六二万五〇〇〇円を支払ったのか。右は要素の錯誤に当たるか。

(二) 原告らは、被告から九ホールの増設費用を作るために増設協力金を負担するよう通知を受けたが、九ホール増設費用はせいぜい二〇億円以内であるにもかかわらず、被告はそれを大幅に上回る少なくとも五〇億一〇〇万円の金員を集金しているので、被告の右説明は会員に対する欺罔行為に当たるか。

原告岩瀬は、九ホールの増設諸費用のために使用されると誤信して、被告に増設協力金を支払ったか。

(被告の主張)

原告岩瀬は、中コースについて会員として利用できる地位にはなかったものであり、被告は同コースについても会員としての利用法を呼びかけたものにすぎず、原告岩瀬は、増設協力金を増設費用のため支払ったわけではなく、二七ホールの会員資格を取得するために支払ったものであるから、原告岩瀬の増設協力金支払いについて錯誤又は詐欺が成立する余地はない。

4  原告らは、被告に対し本件倶楽部会員名簿の発行請求権を有するか。

(原告の主張)

預託金会員制ゴルフクラブの会員権の主たる内容は優先的施設利用権であり、これがどの程度確保されているかは会員の最大関心事であるから、被告は会員に対してどの程度優先的にプレーする機会を提供できるかを明確にする義務がある。

本件倶楽部は、「会員の健全な社交機関」(会則二条)であり、親睦を目的とするものである以上、どんな人が会員なのかを知らないと、会員の親睦を図り、クラブライフを楽しむことができないし、また、会員の入会適格の判断、自立的な秩序維持機能その他運営機能の為にも、会員は誰が会員であるかを知る権利を有するものである。

したがって、被告は、原告ら会員に定期的に会員名簿を発行して交付する義務がある。

(被告の主張)

本件倶楽部は、法律的実体のない任意団体であり、本件倶楽部の会則は、会員と被告との法律関係を規律する基準足りえない。

被告が原告らに対して会員名簿を発行すべき義務を定めた合意は一切ない。

第三争点に対する判断

一争点1(施設利用権の範囲)について

1  原告らは、会員の施設利用権の物的範囲は、ゴルフ会員権契約の合理的意思解釈の問題であるとして、契約後施設が増設された場合の物的範囲の基準について縷々主張した上で、本件増設は、前記基準2の例外(2)又は基準3に該当するので、原告らは施設二について会員としての権利を有する旨を主張するので、以下検討する。

2 原告らは、本件は、前記の基準2の例外(2)「会員権契約締結時の契約内容が一八ホールのみを予定していたが、施設経営企業側の金員の必要のため新規会員を募集するに際し、九ホールを増設する場合」に該当するので、本件契約上の利用権は、施設二にも及ぶ旨を主張する。

まず、ゴルフ会員権契約締結後、新たにゴルフ場経営者が設置した施設については、右契約締結時に当事者間において契約の対象とすることを想定していなかったものは、当然には右契約上の利用権の範囲には含まれないと解されるから、原告ら主張の基準2自体は相当である。

ところで、一般にゴルフ会員権契約は、会員にゴルフ場の施設を会員料金で優先的に利用することができる権利を発生させること等を内容とするものであるが、一定頻度以上のゴルフプレーをする機会を具体的に会員に保証した契約であるとは解されない。本件契約も、契約書等会員の権利、義務の内容を直接規定した書類は提出されていないものの、本件契約時に存在していたゴルフコースを会員料金で優先的に利用することができる権利を発生させること等を内容とするものであると推認されるが、一定頻度以上の会員料金でのゴルフプレーをする機会を具体的に会員に保証した契約であると認めるに足りる証拠はないから、本件契約締結以降、会員料金でプレーできる機会が事実上減少したとしても、そのことが直ちに、本件契約上の利用権侵害、あるいは、債務不履行となるものではないというべきである。(なお、証拠(被告岡田本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフ場は、本件増設後は、原則として東から西、西から中、中から東の各コース順でプレーを続ける利用をさせていることが認められ、仮に、本件増設後会員数を一切増加させず、本件増設によってホール数が1.5倍となって会員一人あたりのプレーの機会が1.5倍に増加したとしても、確率的には、一八ホールを三回プレーするうちの二回は中コースを利用することになり、中コースを利用すると非会員料金を徴収される不払い原告らは、従前は一八ホールすべて会員料金でプレーできたのに比し、本件増設後は一八ホールを三回プレーする内の二回は、そのうち九ホール分について非会員料金を徴収されることになり、東西コースをプレーして一八ホール全部を会員料金でプレーできる機会は、単純計算でも従前より半減することになる。さらに、本件増設に伴い被告が新会員を相応に募集すれば、ホール数の増加に比例して会員一人当たりのプレーの機会が増加することにはならず、さらに、不払い原告が一八ホールプレーした場合そのうち九ホール分について非会員料金を負担することになる場合の確率が三分の二であることは変わらないから、同原告らが一八ホール全部を会員料金でプレーできる機会は一層減少することが推認される。)

もっとも、ゴルフ会員権契約締結後、右契約時に予定していた会員数を大幅に越え著しく会員を増加させ、あるいは契約後施設を減少させる等したため、会員がゴルフプレーをする機会が極端に限られたものになったような場合には、契約上の債務不履行の問題が生じうる余地が全くないわけではないと解するべきであるが、その場合は、損害賠償あるいは会員権契約解除の成否等が問題となるのてあって、ゴルフ会員権契約の内容が、契約締結時に存在しなかった新たな施設にも利用権が及ぶものに当然変更されるとは解されないことは明らかである。

したがって、原告らの主張する基準2の例外基準(2)は、本件契約内容を定める基準としては採用し難いものであり、仮に原告らが一八ホール全部を会員料金でプレーできる機会が事実上減少したとしても、右が、本件契約の対象施設が施設二にも及ぶことの根拠とすることはできないというべきである。

3 また原告らは、施設二は、本件増設前の本件ゴルフ場の付属設備の一つである敷地の中に、既に存在していたインコースを変更して増設したものであり、本件増設後の東、西、中各コースは全体として有機的一体となっているから、前記基準3「新たに設置した施設であっても、それがゴルフ界一般の観念として既設の施設と一体となって機能するものは、当然契約の対象として利用権の範囲に含まれるもの…である。」に該当し、施設二は、当然本件契約の対象として原告らの利用権の範囲に含まれる旨を主張する。

また、原告らは、コースの新設は、一八ホールが新設されなければ、既存施設との一体性のない独立した施設とはいえないところ、インコースは、本件増設後中コース四ホールと西コース五ホールに振り分け使用されることになり、西コースの新設された四ホールだけでは当然のことながら独立して機能を有するものではなく、従前のインコースのうち、西コースとして割り当てられた五ホールと連携して初めて機能を有するものであるから、会員の物的施設利用権は、新たに新設された西コースの四ホールにも及ぶもので、新設された中コースの五ホールについても、右同様であるから、会員の施設利用権は新設された中コース五ホールにも及ぶものである旨主張する。

確かに、ゴルフ場の施設利用契約締結後新たに設置された施設であっても、それがゴルフ界一般の観念として既設の施設と一体となって機能するものは、当然契約の対象として利用権の範囲に含まれると解される。しかしながら、ゴルフのプレーは一ラウンド一八ホールを単位とするものの、ゴルフコースは、原則として九ホール単位で設置され、コース名が付与され、九ホール単位のそれぞれコース毎に各ホールの使用順等の利用方法等が設定されるのであるから、九ホール単位のゴルフコースは、それ自体で一つの独立した施設と考えられるから、ゴルフ場の利用契約であるゴルフ会員権契約は、九ホール単位のゴルフコースの数がいくつ存在するのかが、会員のプレー可能な機会を決定する重要な契約上の要素の一つであると解される。したがって、原告ら主張の基準3の「既設の施設と一体となって機能するもの」とは、具体的には、クラブハウス、休憩所、練習所等のゴルフコースに伴う付属施設をいうものであって、九ホールのゴルフコースが増設された場合には、それが、従前のゴルフコースと組合わされて利用され、全体として一つのゴルフ場として運営されていても、新設されたゴルフコースは、従前の契約上の利用権の対象に当然含まれる施設に当たるとは解されないというべきであるから、本件増設は右基準3の場合に該当せず、原告らの主張は失当である。

なお、本件創設によって、前記のとおり、従前コース合計一八ホールが、東、中、西各コース合計二七ホールに改造されたところ、インコースの施設用地は、西、中各コースの一部にそれぞれ利用されているのであるから、本件増設は、コースの新設に伴う既存コースの改造(変更)であると認められる。このような場合には、本件契約が、一八ホールのゴルフ場の利用契約として締結されており、右契約締結時において契約後に施設が増設されることが想定されていたと認められる証拠はなく、また、右契約締結後増設される施設も契約上の利用権の対象となる旨の特約等が存在していたと認められる証拠もないのであるから、本件契約上の従前のアウトコース部分の利用権は、アウトコースの東コースへの変更に伴いそのまま東コースの利用権として、従前のインコース部分の利用権は、インコースの消滅、西、中各コースの設置に伴い、西コースか、あるいは中コースが、どちらかの利用権として存続すると解するのが、契約の解釈として合理性を有するところ、前記のとおり、インコースの敷地となっていた部分を五ホール分の敷地として使用して設置された西コースを従前のインコースに代わる本件契約上の利用権の対象とする取り扱いをした被告の措置は、本件契約の解釈として相応の合理性を有するものというべきである。

二争点2(不当利得返還請求権の成否)について

不払い原告の不当利得返還請求は、右原告らが施設二についても会員としての利用権を有することを前提とするところ、前記のとおり、右原告らが施設二について会員として利用権を有するとは認められないのであるから、法律上の原因がなく被告が非会員と会員の料金の差額分を利得したとは認められず、不払い原告の主張は理由がない。

三争点3(原告岩瀬の錯誤、被告の詐欺の有無)について

1  原告岩瀬が、被告からの通知を受け、このままでは一八ホール会員の存在は早晩認められなくなると誤信したと認めるに足りる証拠はないので、原告岩瀬の錯誤の主張は理由がない。

2  原告岩瀬は、九ホール増設費用はせいぜい二〇億円以内であるのに、被告はこれを大幅に上回る少なくとも五〇億一〇〇万円の金員を集金しているから、九ホールの増設費用を作るために増設協力金を負担するよう原告らに通知した被告の説明は、会員を欺罔するものである旨主張するが、被告が、増設協力金をコース増設費用以外には使用しない旨を原告らに告知したと認めるに足りる証拠はないから、被告に欺罔行為があったと認めることはできず、原告岩瀬の詐欺の主張も理由がない。

四争点4(倶楽部会員名簿の発行請求権の存否)について

原告らは、優先的施設利用権である預託金会員制ゴルフクラブの会員権の内容、あるいは、本件倶楽部の目的、会則、性質等を、被告に会員名簿を発行、交付請求する根拠として主張する。

原告らの主張の法的根拠は必ずしも明らかではないが、証拠(<書証番号略>)によれば、そもそも、原告らが請求の根拠の一つとして主張する本件倶楽部の会則に、会員が会員名簿の発行、交付を請求できるとする規定はない。右会則は被告と本件倶楽部会員との権利義務関係を定めたものではないが、右会則が本件ゴルフ場を所有し、経営する被告になんらかの法的義務を発生させる根拠となりうる余地があると解するとしても、右会則の規定上は、会員が被告に会員名簿の発行、交付請求権を有すると解することはできないし、本件倶楽部の性質から、当然に原告らが被告に対して右請求権を有すると解することもできない。

また、原告らは、本件契約により認められる優先的施設利用権を原告らの右請求の根拠として主張するが、本件契約上会員が被告に会員名簿の交付等を請求できると解することはできないし、他に、原告らが被告に対し、本件倶楽部の会員名簿の発行請求権を有すると認めるに足りる証拠もないから、原告らの右請求は理由がない。

五予備的請求について

原告らは、施設一について、東コースからスタートして西コースの順に利用し、又は西コースからスタートして東コースの順に利用する会員としての権利を有する旨主張するが、本件契約上、被告が、利用権の対象となるコースについて会員の指定に従い使用順等を一定の方法で利用させることを約定したと解することはできないし、右内容を権利として保証したと認めるに足りる証拠もないから、原告らの予備的請求も理由がない。

(裁判官生野考司)

別紙一覧表<省略>

別紙物件目録(一)

愛知県知多郡武豊町大字富貴所在の東コース及び西コースのゴルフコース並びにこれらに付随する付帯設備

別紙物件目録(二)

愛知県知多郡武豊町大字富貴所在の中コースのゴルフコース

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